少し前に相続税の大幅な税制改正があり、平成27年1月1日以降に相続開始(亡くなった)の基礎控除額が引き下がりました。
平成26年12月31日まで
5,000万円+1,000万円✖法定相続人の数=基礎控除額
平成27年1月1日以降
3,000万円+600万円✖法定相続人の数=基礎控除額
その結果、納税義務者(申告と納税が必要になる人)の割合が増加しました。
平成26年までは全体の死亡者の大体4%くらいが相続税の対象者と言われていたのですが、平成27年以降に関しては6~8%くらいと言われています。
(当初1.5倍を見込んでいたので大幅増です)
そうなると、平成26年までの制度であれば基礎控除以内で相続税の対象外だった人が対象となり、相続税の申告が必要となりました。
富裕層の方々は相続税の知識もあったり、所得税や法人税の確定申告をしたことがある人がほとんどなので知り合いの税理士の方もいます。
それに対し、新たに相続税の対象となった人々はサラリーマンだった層も含まれますので、確定申告をしたことがない人や知り合いの税理士もいなかったりと誰に相談していいかわからないと思います。
そのような方々が相続税の申告書を作成するとなった場合に申告書作成が可能なのかを説明していきます。
そもそも税理士は必要なのか
相続税は毎年申告するような税金ではないので、税理士に依頼した方が確実です。
しかし、相続人自身で作成をされたい方もいるかと思いますので、相続財産が下記の条件に該当するかをチェックしてください。
税理士依頼の判定項目
- 市街地に土地を複数所有している
- 市街地の土地の形状がいびつだ。
- 同族会社(未公開会社)の株式を所有している(明らかな赤字を除く)
- 相続人間で揉めている
- 今まで税務署に提出するの申告書を作成したことがない
- 財産の種類が沢山ある
- 財産の合計額が多い
7つの項目のうち該当項目が少なければ相続人だけで作成は可能です。
しかし、7つ挙げた中で、③に関しては税理士の中でも相続税を専門にしている税理士ではないと計算するのが難しい内容なので税理士に依頼することをオススメします。
素人にできるもの・できないもの
1の【税理士依頼の判定項目】に沿って説明します。
① 市街地に土地を複数所有している
相続税においては、土地の価値を計算により算出する必要があります。
ここでは市街地にある土地と限定しましたが、
土地評価には
・ 路線価方式
・ 倍率方式
が存在し、市街地の土地のほとんどが路線価方式による計算します。
その路線価方式ですが、路線価額に対象地の形状などを加味して補正をし、補正後の路線価額に対象地の面積(㎡)を乗じて算出します。
下記の②にも関係してきますが、土地の形状によっては評価額が2,3割減少することもあるため、不慣れな人が複数の土地を評価するのは少々難解です。
倍率方式に関しては基本的に対象となる土地が存在する市区町村で固定資産税の評価額を算出しており、その評価額に国税庁が公表している倍率を乗ずるのみで計算は終わります。
(貸付等行っている場合は別です)
倍率方式は基本的には市街化調整区域(建物の建築制限がある地域)なので市街地にはほとんどありません。
② 市街地の土地の形状がいびつだ。
土地の評価のポイントとなるのが土地の形状です。
単純な
路線価額 × 面積(㎡) = 評価額
になる場合もあるのですが、
市場で同じ200㎡の土地が売りに出されていた場合に正方形の土地と三角形の土地があれば、三角形の土地が安いように相続税でも土地の形状によって価値の補正をしなければいけません。
補正の種類としては
・ 間口狭小(入口が狭い)
・ 奥行長大(奥に長い)
・ 不整形地(土地の形状が歪)
・ 無道路地(公道に接していない)
・ 複数の道路に接している(こちらは評価が上がります)
など計算過程が多いのが特徴で、土地の形状が歪であるほどこの計算が難しくなります。
③ 同族会社(未公開会社)の株式を所有している(明らかな赤字を除く)
上場会社の株式の評価計算は簡単なのですが、未公開会社の株式はかなり難しいです。
正直こちらに関しては、その法人の経理や申告書作成をしていなければ素人が計算するのは難しいです。
未公開会社の株式は対象の会社の規模によって異なり、
上場会社並みの規模であれば、上場株式の株価を参考にして計算を行います。
(類似業種比準方式)
逆に規模が小さい会社に関しては、会社の資産を株価に反映させます。
(純資産方式)
④ 相続人間で揉めている
相続税の申告と納税は基本的に各相続人が行うものになりますが、相続人間で同意していれば1つの申告書に連名で署名し提出することができます。
(納税は各相続人が行います)
ここで問題になるが相続人間で揉めている場合で、
・ 相続税の金額が一致しない
・ 特例が適用できない
のようなケースが出てきてしまいます。
その申告書の相続税の金額が一致しない場合には、税務署側からみればどちらか一方の申告書は間違いだと判断しますので、税務調査が行われる可能性が高くなります。
特例適用には遺産分割が前提となるものがあり、配偶者控除(軽減)や小規模宅地等の特例といったは特例は分割が完了していないと適用できません。
そのような場合には、一度未分割(財産を法定相続分で取得したと仮定して)で申告と納税をする必要があります。
⑤ 今まで税務署に提出するの申告書を作成したことがない
どの種類の申告書であっても、作成をしたことがあるかないかで難易度が変わります。
見たことがあるだけで相続税の申告書のイメージが湧いたりするので、大きなさです。
⑥ 財産の種類が沢山ある
相続財産の種類が多ければ、その種類に応じた計算が必要になります。
当然画一的な算出方法はありませんので、それだけ時間が掛かってしまします。
⑦ 財産の合計額が多い
相続財産が大きいと相続税の税率も高くなります。
そうなると評価の誤りによる相続税の税額に大きく影響が及ぶのでリスクが上がります。
素人が行うメリット・デメリット
メリット
・ 税理士に支払う費用が発生しない
税理士報酬は上限が決まってなく、報酬額は相続財産に対しての割合や固定の金額など各税理士事務所によって異なります。
相続税は申告書の作成に大きな労力を必要としますのでそれに伴う対価は必要になります。
相続人で申告書を作成できればその費用を支払う必要がないので、相続経費が削減することができます。
・ 相続税の知識が増える
相続税の申告書はさまざまな要素が盛り込まれています。
個人が作成する申告書では一番難しい部類なので、相続税の申告書が作成できれば、他の税目の申告書を作成するのも難しくないはずです。
・ 手続きを行った達成感
自分自身で作成したものには達成感が伴います。
相続税自体は相続人にもたらす恩恵がないので、達成感を対価とするのもアリです。
デメリット
・ 税務調査のリスク
税理士と納税者が作成した申告書では、納税者の申告書の方が記載誤りや申告漏れの可能性は高いです。
税務署もその点を認識しているため、税務調査によって内容確認をするケースは増えます。
・ 追加納税のリスク
税務調査等により支払う相続税が増加した場合、相続税(本税)の他に加算税・延滞税(附帯税)を別途納付する必要があります。
・ 相続税の申告書作成に伴う消費時間
相続税の申告書の作成は1,2時間で作成できるものではありません。
不慣れな人の場合は少なくても十数時間必要になるケースもあります。
人によってはその時間を消費が大きな損失にもなるため税理士に依頼して確実な申告書を提出した方がいいです。
終わりに
税務署に在籍していた当時には、
「素人にも相続税の申告書が作成できますか?」
このような質問を毎週のように受けてました。
申告書の作成できるかの有無であれば、
「誰でも作成できますよ」
そんな回答をします。
しかし、実際には
「相続財産の種類とあなたの知識によって変わるのでなんとも回答できないです」
このような回答ばかりしていました。
税理士報酬は決して低いものではないかもしれません。
しかし、相続人で申告書を作成したけど税務調査があって後から税理士に依頼した話も実際にあります。
そうなると作成する際にかかった時間が無駄になることもあります。
難しいと感じた場合には税理士に一任して、手続きを済ませるのも有効な手段だと思います。